テーマ2-14:高頻度物資回収システム技術
テーマID: theme2_14
カテゴリ: 衛星等(第二期)
作成日: 2025-10-22
テーマ2-14:高頻度物資回収システム技術
概要
国際宇宙ステーション(ISS)では、細胞培養、タンパク質結晶生成、新材料開発など、時間的制約が厳しい宇宙実験が数多く実施されています。しかし、現在ISSからの実験サンプル回収は年3回程度の有人宇宙船カプセルに限られており、サンプル劣化前の即時回収が必要な実験にとって深刻なボトルネックとなっています。
この制約により、貴重な実験機会が失われ、宇宙環境利用の潜在的な価値が十分に引き出せていません。2030年以降のISS運用終了後、民間主導の低軌道有人拠点時代においては、市場規模3兆円と試算される地球低軌道利用サービス市場で競争力を持つため、ユーザーが回収したいタイミングで即時的にサンプルを回収できるシステムの確立が不可欠です。
本テーマでは、低軌道拠点から実験サンプルを搭載した回収システムを放出し、サンプルの温度・圧力を精密に制御しながら、狙った目標地点に高精度で着地させる高頻度物資回収システム技術の開発を推進します。
技術開発の内容
本テーマでは、以下の技術開発を対象とします:
1. 小型回収カプセル技術
コンパクトで頻繁に使用できる回収カプセルを開発します:
カプセル構造設計
- 小型軽量設計:打上げコスト削減のための軽量化
- 耐熱構造:再突入時の空力加熱に耐える構造
- サンプル保護:着陸衝撃からの実験サンプル保護
- モジュール設計:様々なサンプルサイズに対応
熱防護システム(TPS)
- アブレータ材料:効率的な熱吸収・放散
- 断熱設計:サンプル室への熱伝導遮断
- 軽量TPS:質量効率の高い熱防護
- 再使用可能性:複数回使用への対応
姿勢制御システム
- 安定降下制御:再突入時の姿勢安定化
- スピン制御:空力安定性の確保
- 姿勢センサー:リアルタイム姿勢把握
- 小型スラスター:姿勢微調整機能
2. サンプル環境制御技術
実験サンプルの品質を維持する環境制御技術を開発します:
温度制御システム
- 精密温度制御:±1℃以内の温度維持
- 多温度帯対応:冷凍・冷蔵・常温の同時対応
- 断熱構造:外部温度変化の遮断
- 長時間維持:回収から地上到着まで24時間以上
圧力制御システム
- 密閉構造:完全な気密性確保
- 圧力調整:実験に適した圧力維持
- 真空保持:必要に応じた真空環境維持
- 圧力監視:リアルタイム圧力モニタリング
振動・衝撃緩和
- ショックアブソーバー:着陸時の衝撃吸収
- 防振マウント:降下中の振動低減
- クッション材:サンプル保護用緩衝材
- 多重保護:複数段階の衝撃緩和機構
3. 高精度誘導・着陸技術
目標地点への正確な着陸を実現する技術を開発します:
軌道離脱制御
- 最適離脱タイミング:目標着陸点への軌道計算
- デオービット推進:正確な軌道離脱制御
- 軌道予測精度:大気密度変動の考慮
- 異常時対応:代替着陸地点への変更
再突入誘導
- 揚力制御:再突入時の軌道調整
- バンク角制御:左右方向の軌道修正
- 過負荷管理:サンプルへの加速度制限
- 風外乱補償:上層大気の風影響補正
終端誘導制御
- パラシュート展開:最適高度での展開
- GPS誘導:高精度位置測定
- 風補正:低高度の風影響補正
- 着地予測:リアルタイム着地点予測
着陸精度向上
- パラフォイル制御:滑空による軌道調整
- 自動操縦:風向・風速に応じた自動制御
- 着陸速度制御:安全な着地速度の実現
- 障害物回避:着陸エリアの障害物検知
4. 放出・回収運用システム
効率的な放出と回収を実現する運用システムを開発します:
宇宙ステーション放出システム
- エアロック活用:既存エアロックからの放出
- 放出機構:安全で確実な分離機構
- 軌道確認:放出後の軌道追跡
- 衝突回避:宇宙ステーションとの安全距離確保
地上回収システム
- 着陸点特定:GPS・ビーコンによる位置特定
- 迅速回収:着陸後30分以内の回収体制
- 輸送体制:実験施設への迅速な輸送
- 24時間対応:いつでも回収可能な体制
追跡・通信システム
- 軌道追跡:再突入から着陸までの追跡
- テレメトリ取得:カプセル状態のリアルタイム監視
- 位置情報送信:着陸位置の正確な通知
- 緊急連絡:異常時の即座の通報
5. 高頻度運用技術
年間多数回の運用を可能にする技術を開発します:
ターンアラウンド技術
- 迅速点検:短時間での健全性確認
- 部品交換:消耗品の迅速な交換
- 機能確認:自動化された機能試験
- 短期間再利用:1ヶ月以内の再使用
運用効率化
- 自動チェックリスト:点検項目の自動化
- 在庫管理:交換部品の適切な在庫
- スケジューリング:効率的な運用計画
- コスト管理:運用コストの最適化
信頼性確保
- 予防保全:故障前の部品交換
- 品質管理:一貫した品質基準
- データ分析:過去データからの改善
- 安全審査:各回の安全性評価
期待される効果
本テーマによる技術開発により、以下の効果が期待されます:
宇宙実験の革新
- 時間的制約の厳しい実験の実現
- 実験サイクルの大幅な短縮
- 実験機会の増大
- 新たな実験領域の開拓
宇宙ビジネスの拡大
- 地球低軌道利用市場(3兆円規模)への貢献
- 製薬・材料開発企業の宇宙利用促進
- 回収サービスの商業化
- 関連産業の成長
国際競争力の強化
- 世界をリードする回収技術の確立
- 民間宇宙ステーション市場での優位性
- 技術輸出の可能性
- 日本の宇宙産業の成長
公募情報
公募スケジュール
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 公募開始 | 2025年6月13日 |
| 公募締切 | 2025年8月7日(正午) |
| 一次審査(書面) | 2025年8月中旬~9月中旬 |
| 二次審査(ヒアリング) | 2025年9月中旬~10月中旬 |
| 結果通知 | 2025年10月中旬~11月頃 |
応募要件
必須要件
- e-Radの機関・研究者登録が完了していること
- 国内に研究開発拠点を有する日本の法律に基づく法人格を持つこと
- 研究代表者・研究分担者は日本の居住者であること
- 再突入技術または回収カプセル技術の知見を有すること
実施体制要件
- 宇宙機開発または再突入機開発の実績を有すること
- 熱防護技術・誘導制御技術の専門知識
- 回収運用体制の構築能力
- 商用サービス化に向けた事業計画
審査基準
主な審査・評価の観点:
- 技術開発の実現可能性
– 開発技術の技術成熟度と開発計画の妥当性
– サンプル保護性能の実現可能性
– 実証計画の具体性
- 高頻度運用の実現性
– ターンアラウンド時間の短縮効果
– 運用コストの削減
– 年間運用回数の目標
- 市場性・事業性
– 地球低軌道利用市場への貢献
– ビジネスモデルの妥当性
– 収益見通しと投資回収計画
- 実施体制・マネジメント
– 再突入技術・回収技術の専門性
– 研究代表者のリーダーシップ・マネジメント能力
– 宇宙実験ユーザー・事業者との連携体制
関連情報
国内外の動向
海外の回収システム
- SpaceX Dragon:ISS物資回収(年3回程度)
- NASA:商業補給サービス(CRS)
- 中国:神舟・天舟による回収
小型回収カプセル開発
- Varda Space Industries(米国):小型製造・回収カプセル
- Inversion Space(米国):高頻度回収システム
関連資料
まとめ
テーマ2-14「高頻度物資回収システム技術」は、宇宙実験サンプルの即時回収を実現し、宇宙環境利用の価値を最大化する画期的なテーマです。
小型回収カプセル、精密な環境制御、高精度誘導・着陸技術、高頻度運用システムの開発により、年3回から大幅に増加した回収機会が実現し、製薬・材料開発企業の宇宙利用が促進され、市場規模3兆円の地球低軌道利用市場の成長に貢献します。
応募締切は2025年8月7日(正午)です。再突入技術や回収カプセル技術の専門知識を有し、高頻度物資回収システムの実現に意欲的な企業・研究機関の皆様は、ぜひご応募をご検討ください。

コメント