JAXA宇宙戦略基金 全49テーマ予算規模分析

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JAXA宇宙戦略基金 全49テーマ予算規模分析

JAXA宇宙戦略基金 全49テーマ予算規模分析

概要

JAXA宇宙戦略基金は、第一期(25テーマ)と第二期(24テーマ)の合計49テーマで構成される、総額約6,190億円の大規模研究開発支援プログラムです。本記事では、公募要領等の公開情報に基づき、全49テーマの予算規模と採択予定件数の分布を客観的に分析します。

本記事で示すデータは、各テーマの公募要領に記載された予算総額および採択予定件数に基づいています。

予算規模の全体像

下図は、全49テーマの予算総額と採択予定件数の分布を示しています。

!JAXA宇宙戦略基金 全49テーマ予算分布図

図1: 全49テーマの予算総額(縦軸)と採択予定件数(横軸)の分布。バブルサイズは1件あたり予算を示す。青色は第一期(完了)、橙色は第二期(公募中)。点線は第二期の平均値(予算138億円、採択5件)を基準とした象限分割線。

期別予算規模

テーマ数 予算総額 平均予算 採択予定総数
第一期(完了) 25テーマ 約2,500億円 約100億円 48件
第二期(公募中) 24テーマ 約3,690億円 約154億円 125件
合計 49テーマ 約6,190億円 約126億円 173件

第二期の予算総額は第一期の約1.5倍となっており、宇宙戦略基金の規模が拡大していることがわかります。

予算規模の分布

項目 予算規模 テーマ例
最小規模 4億円 テーマ8:光赤外線天文観測用検出器
最大規模 950億円 テーマ2-23:月面探査車システム
平均規模 126億円
中央値規模 約50億円 多くのテーマがこの規模

象限分析:予算×採択予定数で見る4つのカテゴリ

第二期の24テーマを、予算総額(横軸)と採択予定件数(縦軸)の2軸で分類し、平均値(138億円、5件)を基準に4つの象限に分類した結果を示します。

Q1象限(右上):大規模・多採択テーマ(3テーマ)

特徴:予算規模が大きく、採択予定件数も多い

該当テーマ

  • テーマ2-19:高頻度打上げに資するロケット部品・コンポーネント等の開発

– 予算総額:195億円
– 採択予定:10件程度
– 1件あたり:最大40億円程度

  • テーマ2-20:高頻度打上げに資するロケット製造プロセスの革新

– 予算総額:600億円
– 採択予定:10件程度
– 1件あたり:最大200億円程度

  • テーマ2-22:衛星データ利用システムの実装支援

– 予算総額:176億円
– 採択予定:30件程度
– 1件あたり:最大10億円程度

傾向:宇宙輸送および衛星データ利用といった産業基盤の強化に関わるテーマが該当しています。複数件の採択を予定しているため、サプライチェーン全体の底上げを図る意図が見られます。

Q2象限(左上):小規模・多採択テーマ(3テーマ)

特徴:予算規模は平均以下だが、採択予定件数は多い

該当テーマ例

  • テーマ2-3:超小型衛星開発に係る技術開発支援(100億円、採択予定20件程度)
  • テーマ2-8:宇宙空間における移動及び作業技術の開発・実証(100億円、採択予定10件程度)

傾向:1件あたりの予算規模が5億円~10億円程度の技術開発テーマが多く、多様なアプローチでの技術開発を促進する意図が見られます。超小型衛星や軌道上サービスなど、新興分野のテーマが該当しています。

Q3象限(左下):小規模・少採択テーマ(14テーマ)

特徴:予算規模が小さく、採択予定件数も少ない

該当テーマ数:第二期で最多の14テーマ

傾向:特定の専門技術分野に特化したテーマが多く、採択予定件数は1件~3件程度です。宇宙天気予報、高精度観測技術、特殊センサ開発など、ニッチな技術分野のテーマが該当しています。予算総額は20億円~80億円程度の範囲です。

Q4象限(右下):大規模・少採択テーマ(4テーマ)

特徴:予算規模が大きいが、採択予定件数は少ない

該当テーマ例

  • テーマ2-23:月面探査車システム(950億円、1件程度)
  • テーマ2-21:大型ロケット向け液化天然ガスエンジン(160億円、1件程度)
  • テーマ2-2:先進光学衛星(600億円、1件程度)

傾向:月面探査車、大型ロケットエンジン、先進光学衛星といった国家的重要プロジェクトが該当します。1件あたりの予算規模が160億円~950億円と極めて大規模であり、システム全体の開発を想定していると推測されます。

カテゴリ別予算分析

宇宙輸送カテゴリ(9テーマ)

第一期(7テーマ)

  • theme18: 固体モータ主要材料量産化のための技術開発
  • theme1a: 宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術
  • theme1b_1, theme1b_2: 宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術(複数公募)
  • theme6a, theme6b: 将来輸送に向けた地上系基盤技術(複数公募)
  • theme7: 宇宙輸送システムの統合航法装置の開発

第二期(2テーマ)

  • theme2_19: 高頻度打上げに資するロケット部品・コンポーネント等の開発
  • theme2_6: スマート射場の実現に向けた基盤システム技術

特徴

  • 予算規模が大きいテーマが多い(平均150億円以上)
  • ロケット開発関連が中心
  • 大手企業向けテーマが多い

主要テーマ

  • theme2_19: 高頻度打上げに資するロケット部品・コンポーネント等の開発(195億円、10件)
  • theme6a/6b: 将来輸送に向けた地上系基盤技術(予算詳細は公募要領参照)
  • theme1a/1b: 宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術(予算詳細は公募要領参照)

衛星等カテゴリ(8テーマ)

第一期(8テーマ)

  • theme10: 衛星量子暗号通信技術の開発・実証
  • theme11: 衛星コンステレーション構築に必要な通信技術(光ルータ)の実装支援
  • theme16: 高精度衛星編隊飛行技術
  • theme19: 衛星データ利用システム海外実証(フィージビリティスタディ)
  • theme2: 商業衛星コンステレーション構築加速化
  • theme21: (追加公募)衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証
  • theme8: 高分解能・高頻度な光学衛星観測システム
  • theme9: 高出力レーザの宇宙適用による革新的衛星ライダー技術

特徴

  • 予算規模にばらつきがある(20億円~600億円)
  • 小型衛星から大型衛星まで幅広い
  • 中小企業から大手企業まで応募可能

主要テーマ

  • theme10: 衛星量子暗号通信技術の開発・実証(予算詳細は公募要領参照)
  • theme8: 高分解能・高頻度な光学衛星観測システム(予算詳細は公募要領参照)
  • theme2: 商業衛星コンステレーション構築加速化(予算詳細は公募要領参照)

探査等カテゴリ(9テーマ)

第一期(9テーマ)

  • theme12: 低軌道自律飛行型モジュールシステム技術
  • theme13: 低軌道汎用実験システム技術
  • theme14: 大気突入・空力減速に係る低コスト要素技術
  • theme15: 月測位システム技術
  • theme17: 国際競争力と自立・自在性を有する物資補給システムに係る技術
  • theme20: 半永久電源システムに係る要素技術
  • theme3: 再生型燃料電池システム
  • theme4: (再公募)月面の水資源探査技術(センシング技術)の開発・実証
  • theme5: 月-地球間通信システム開発・実証(FS)

特徴

  • 月・火星探査関連が中心
  • 予算規模が大きいテーマが多い
  • 大手企業・研究機関向け

主要テーマ

  • theme17: 国際競争力と自立・自在性を有する物資補給システムに係る技術(155億円、2件)
  • theme15: 月測位システム技術(予算詳細は公募要領参照)
  • theme5: 月-地球間通信システム開発・実証(予算詳細は公募要領参照)

第二期その他のテーマ(22テーマ)

第二期では上記以外に、以下のテーマが公募されています:

  • theme2_1: 衛星光通信を活用したデータ中継サービスの実現に向けた研究開発・実証
  • theme2_2: 衛星光通信の導入・活用拡大に向けた端末間相互接続技術等の開発
  • theme2_3: 超小型衛星開発に係る技術開発支援
  • theme2_4: 国際競争力ある通信ペイロードに関する技術の開発・実証
  • theme2_5: 衛星通信と地上ネットワークの統合運用の実現に向けた周波数共用技術等の開発・実証
  • theme2_7: 有人宇宙輸送システムにおける安全確保の基盤技術
  • theme2_8: 次世代地球観測衛星に向けた観測機能高度化技術
  • theme2_9: 地球環境衛星データ利用の加速に向けた先端技術
  • theme2_10: 空間自在移動の実現に向けた技術
  • theme2_11: 空間自在利用の実現に向けた技術
  • theme2_12: 軌道上データセンター構築技術
  • theme2_13: 船外利用効率化技術
  • theme2_14: 高頻度物資回収システム技術
  • theme2_15: 宇宙空間における移動及び作業技術の開発・実証
  • theme2_16: 月極域における高精度着陸技術
  • theme2_17: 宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」
  • theme2_18: SX中核領域発展研究「SX-ARK」
  • theme2_20: 高頻度打上げに資するロケット製造プロセスの刷新
  • theme2_21: 射場における高頻度打上げに資する汎用設備フィージビリティスタディ
  • theme2_22: 衛星データ利用システム実装加速化事業
  • theme2_23: 革新的衛星ミッション技術実証支援
  • theme2_24: 宇宙機の環境試験の課題解決

主要テーマ

  • theme2_22: 衛星データ利用システム実装加速化事業(176億円、30件)← 採択予定件数最多
  • theme2_20: 高頻度打上げに資するロケット製造プロセスの刷新(600億円、10件)
  • theme2_15: 宇宙空間における移動及び作業技術の開発・実証(100億円、10件)

期別の比較分析

第一期と第二期の予算配分の違い

第一期と第二期では、予算配分および採択件数の傾向に以下の違いが見られます:

第一期(25テーマ)

  • 予算総額:約2,500億円
  • 平均予算:約100億円/テーマ
  • 採択予定総数:48件
  • 1テーマあたり平均採択件数:約1.9件

第二期(24テーマ)

  • 予算総額:約3,690億円
  • 平均予算:約154億円/テーマ
  • 採択予定総数:125件
  • 1テーマあたり平均採択件数:約5.2件

傾向:第二期では第一期と比較して、1テーマあたりの平均予算が約1.5倍に増加し、1テーマあたりの平均採択件数が約2.7倍に増加しています。これは、第二期において産業基盤強化やサプライチェーン構築を重視する方針が反映されていると考えられます。

採択予定件数の分布

採択予定件数別のテーマ数

全49テーマを採択予定件数別に分類すると、以下の分布となります:

  • 1件のみ:22テーマ(45%)
  • 2~3件:13テーマ(27%)
  • 4~9件:8テーマ(16%)
  • 10件以上:6テーマ(12%)

傾向:全体の約45%のテーマが採択予定1件のみであり、特定の技術分野に特化したテーマが多いことがわかります。一方、10件以上の採択を予定するテーマは6テーマ(12%)のみであり、産業基盤強化に関わるテーマに限定されています。

採択予定10件以上のテーマ

  • テーマ2-22:衛星データ利用システム(30件)
  • テーマ2-3:超小型衛星開発支援(20件)
  • テーマ2-19:ロケット部品・コンポーネント開発(10件)
  • テーマ2-20:ロケット製造プロセス革新(10件)
  • テーマ2-8:宇宙空間移動・作業技術(10件)
  • テーマ2-24:ロケット射場設備(10件)

まとめ

本記事では、JAXA宇宙戦略基金の全49テーマについて、予算規模と採択予定件数の観点から客観的な分析を行いました。

主な分析結果

  • 予算総額:約6,190億円(第一期: 2,500億円、第二期: 3,690億円)
  • 採択予定総数:173件(第一期: 48件、第二期: 125件)
  • 予算規模の範囲:4億円(テーマ8)~950億円(テーマ2-23)
  • 第二期では1テーマあたりの平均予算・採択件数ともに第一期の約1.5~2.7倍に増加

象限分析の結果

  • Q1(大規模・多採択):3テーマ 産業基盤強化が中心
  • Q2(小規模・多採択):3テーマ 新興分野の技術開発
  • Q3(小規模・少採択):14テーマ 専門技術分野に特化
  • Q4(大規模・少採択):4テーマ 国家的重要プロジェクト

本分析が、宇宙戦略基金の全体像理解および各テーマの特徴把握の一助となれば幸いです。

関連資料

備考

JAXA宇宙戦略基金に関する
詳細はJAXA公式サイトをご確認ください。


*最終更新日:2025年10月27日*

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