テーマ2-12:軌道上データセンター構築技術
テーマID: theme2_12
カテゴリ: 衛星等(第二期)
作成日: 2025-10-22
テーマ2-12:軌道上データセンター構築技術
概要
地球低軌道における宇宙利用市場は、2030年以降に市場規模3兆円に達すると試算されており、その中で軌道上データセンターは新たな宇宙ビジネスの核となる技術です。大規模地球観測衛星コンステレーションの出現により、軌道上で生成されるデータが爆発的に増加する中、地上に全データをダウンリンクして処理する従来方式では、通信帯域と処理時間の制約が深刻なボトルネックとなっています。
本テーマでは、2030年以降のISS運用終了後に民間主導で構築される商業宇宙ステーション内に設置可能なデータ処理施設の実現を目指し、高性能プロセッサの熱制御システム、大容量光通信ネットワーク、セキュリティとユーザビリティを兼ね備えた軌道上データセンターの基盤技術開発を推進します。
技術開発の内容
本テーマでは、以下の技術開発を対象とします:
1. 高性能熱制御システム
宇宙環境における高出力プロセッサの冷却技術を開発します:
放熱機構設計
- 高効率ヒートパイプ:微小重力環境での効率的な熱輸送
- ラジエータ最適化:限られた表面積での最大放熱
- 液冷システム:高密度実装プロセッサの冷却
- 熱設計マージン:長期運用に耐える信頼性確保
電力・熱管理
- 電力消費最適化:処理負荷に応じた動的電力管理
- 熱分布制御:局所的な過熱の防止
- 温度モニタリング:リアルタイム温度監視システム
- 異常時対応:過熱時の自動処理抑制機能
宇宙環境対応
- 真空環境冷却:対流のない環境での熱放散技術
- 太陽光熱影響対策:軌道位置による熱入力変動への対応
- 放射線耐性:宇宙放射線に強い冷却システム
- 長期信頼性:10年以上の連続運用耐久性
2. 大容量光通信ネットワーク
軌道上データセンターと地上・衛星間の高速通信を実現します:
光通信端末
- 高速光トランシーバー:Gbps級のデータ送受信
- 高精度ポインティング:狭ビーム光通信の精密指向制御
- 自動捕捉追尾:通信相手の自動捕捉と追尾維持
- 複数同時通信:複数の地上局・衛星との並行通信
ネットワーク制御
- 動的ルーティング:最適な通信経路の自動選択
- 優先度制御:データ重要度に応じた帯域割当
- 誤り訂正:高信頼性データ伝送
- 遅延最小化:リアルタイム処理に必要な低遅延通信
地上インフラ連携
- 地上局ネットワーク:複数地上局での受信体制
- 雲回避技術:天候影響の最小化
- バックアップ通信:光通信不可時のRF通信切替
- 標準プロトコル:既存ネットワークとの互換性
3. データ処理基盤
軌道上での高度なデータ処理を実現する計算基盤を構築します:
高性能コンピューティング
- GPU/AI専用プロセッサ:機械学習・画像処理の高速化
- 並列処理アーキテクチャ:大規模データの分散処理
- 放射線耐性設計:宇宙放射線によるソフトエラー対策
- 電力効率最適化:限られた電力での最大性能
ストレージシステム
- 大容量ストレージ:観測データの一時保存
- 高速アクセス:処理に必要なデータの迅速な読み書き
- データ冗長化:故障時のデータ保護
- 自動バックアップ:重要データの自動複製
運用管理システム
- リソース管理:計算資源の効率的配分
- ジョブスケジューリング:複数タスクの最適実行順序
- 性能監視:システム性能のリアルタイム把握
- 遠隔保守:地上からのシステム管理
4. セキュリティシステム
機密性の高いデータを扱うためのセキュリティ技術を開発します:
アクセス制御
- 認証システム:厳格なユーザー認証
- 権限管理:データ・機能へのアクセス制限
- 多要素認証:高度なセキュリティレベル
- ログ記録:全操作の記録と監査
データ保護
- 暗号化通信:地上-軌道間の通信暗号化
- データ暗号化:保存データの暗号化
- 鍵管理:暗号鍵の安全な管理
- データ消去:不要データの確実な削除
セキュリティ監視
- 侵入検知:不正アクセスの検知
- 異常動作検知:マルウェア等の検出
- セキュリティ更新:脆弱性への迅速な対応
- インシデント対応:セキュリティ事故時の手順
5. ユーザビリティ設計
利用しやすいシステムインターフェースを開発します:
ユーザーインターフェース
- Webベースアクセス:ブラウザからの簡単アクセス
- 直感的操作:専門知識不要の操作画面
- 可視化ツール:処理状況の視覚的表示
- カスタマイズ機能:用途に応じた画面設定
API提供
- RESTful API:外部システムとの連携
- SDK提供:各種プログラミング言語対応
- ドキュメント整備:詳細な利用マニュアル
- サンプルコード:利用事例の提供
サポート体制
- 技術サポート:ユーザーからの問い合わせ対応
- トレーニング:利用者向け研修プログラム
- コミュニティ:ユーザー間の情報交換
- フィードバック反映:ユーザー要望の機能改善
期待される効果
本テーマによる技術開発により、以下の効果が期待されます:
データ処理の革新
- 軌道上での即時データ処理による価値創出時間の大幅短縮
- 地上へのダウンリンク帯域の削減
- リアルタイムデータ解析サービスの実現
- 新たな宇宙データビジネスモデルの創出
宇宙利用市場の拡大
- 地球低軌道利用市場(3兆円規模)への民間参入促進
- 衛星データ解析サービスの高度化
- 宇宙環境を活用した新サービス創出
- 宇宙ビジネスエコシステムの形成
将来への発展
- 月面探査への技術転用
- 深宇宙探査での活用
- 宇宙産業の国際競争力強化
- 次世代宇宙インフラの構築
公募情報
公募スケジュール
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 公募開始 | 2025年7月25日 |
| 公募締切 | 2025年9月25日(正午) |
| 一次審査(書面) | 2025年10月上旬~11月上旬 |
| 二次審査(ヒアリング) | 2025年11月上旬~12月上旬 |
| 結果通知・発表 | 2025年12月中旬~2026年1月頃 |
応募要件
必須要件
- e-Radの機関・研究者登録が完了していること
- 国内に研究開発拠点を有する日本の法律に基づく法人格を持つこと
- 研究代表者・研究分担者は日本の居住者であること
- 軌道上データ処理またはデータセンター技術の知見を有すること
実施体制要件
- データセンター技術または宇宙システム開発の実績を有すること
- 熱制御技術・光通信技術・高性能計算技術のいずれかの専門性
- 商業宇宙ステーション事業者との連携体制
- 商用サービス化に向けた事業計画
審査基準
主な審査・評価の観点:
- 技術開発の実現可能性
– 開発技術の技術成熟度と開発計画の妥当性
– 宇宙環境での実現可能性
– 実証計画の具体性
- 市場性・事業性
– 地球低軌道利用市場への貢献
– ビジネスモデルの妥当性
– 収益見通しと投資回収計画
- 技術的優位性
– 既存技術との差別化要素
– 国際競争力
– 技術の波及効果
- 実施体制・マネジメント
– データセンター技術・宇宙技術の専門性
– 研究代表者のリーダーシップ・マネジメント能力
– 商業宇宙ステーション事業者との連携体制
関連情報
国内外の動向
海外の軌道上コンピューティング
- HPE(米国):ISS上でのスーパーコンピューター実証
- Amazon Web Services:衛星データ処理サービス
- Microsoft Azure Space:宇宙データプラットフォーム
商業宇宙ステーション計画
- Axiom Space(米国):民間宇宙ステーション開発
- Blue Origin(米国):Orbital Reef構想
- Voyager Space(米国):Starlab計画
関連資料
まとめ
テーマ2-12「軌道上データセンター構築技術」は、2030年以降の民間主導の宇宙ステーション時代に向けて、軌道上でのデータ処理基盤を構築する画期的なテーマです。
高性能熱制御システム、大容量光通信ネットワーク、高度なセキュリティとユーザビリティを統合したシステム開発により、3兆円規模の地球低軌道利用市場の創出と新たな宇宙ビジネスエコシステムの形成が期待されます。
応募締切は2025年9月25日(正午)です。データセンター技術や宇宙システム開発の専門知識を有し、次世代宇宙インフラ構築に意欲的な企業・研究機関の皆様は、ぜひご応募をご検討ください。

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