自走式モジュラートランスポーター(SPMT)
重量物搬送の標準技術 — 仕様・メーカー・国内動向
1 はじめに
自走式モジュラートランスポーター(Self-Propelled Modular Transporter、SPMT)は、数百トンから数万トンの重量物を搬送するための多軸・自走式プラットフォームである。造船所での船体ブロック搬送、石油化学プラントのモジュール据付、橋梁の架設、洋上風力発電設備の陸上輸送など、重量物搬送のあらゆる分野で使用されている (1)。
SPMTの原型は1983年にドイツのScheuerle社が出荷した (2)。以来40年以上にわたり改良が重ねられ、2022年にはMammoetが748軸線を連結して20,300トンのFPSO(浮体式生産貯蔵積出設備)を搬送した実績がある (1)。
本記事では、SPMTの基本技術、主要メーカーの製品仕様比較、および日本国内の重量物搬送技術の動向を解説する。
2 SPMTの基本構造
2.1 モジュール構成
SPMTは複数の軸線モジュールとパワーパックユニット(PPU)で構成される。軸線モジュールを横方向(side-by-side)または縦方向(end-to-end)に連結し、搬送物の重量と形状に応じた構成を組むことができる (3)。
| 構成要素 | 役割 |
|---|---|
| 軸線モジュール | 荷重支持・走行・操舵を担う基本ユニット |
| パワーパックユニット(PPU) | 油圧動力源。エンジン+油圧ポンプを搭載 |
| 制御システム | 操舵・走行・サスペンションの統合制御 |
2.2 軸荷重と搬送能力
SPMTの搬送能力は軸荷重(1軸線あたりの許容荷重)で決まる。業界標準のScheuerle SPMTでは、タイヤ種別に応じて40〜60トン/軸の軸荷重が設定されている (3)。
| タイヤ種別 | 軸荷重 |
|---|---|
| 空気入り(標準) | 40 t/軸 |
| 空気入り(強化) | 48 t/軸 |
| ポリフィル(標準) | 48 t/軸 |
| ポリフィル(強化) | 60 t/軸 |
Scheuerle標準SPMTの軸数別ペイロードは以下のとおりである (3)。
| 軸数 | ペイロード |
|---|---|
| 3軸 | 166.5 t |
| 4軸 | 222.2 t |
| 5軸 | 278.3 t |
| 6軸 | 333.9 t |
複数モジュールを連結すると搬送能力は累積され、数百軸線の大規模構成では10,000トンを超える搬送も可能となる。
2.3 操舵システム
| 方式 | 操舵角 | 特徴 | 代表製品 |
|---|---|---|---|
| 電子式多方向操舵 | ±110〜135° | 高精度、8モード、カルーセル走行可 | Scheuerle SPMT, Cometto Eco1000 |
| 機械式操舵 | ±55〜60° | 構造がシンプル、低コスト | Kamag K25, Nicolas MDED |
| スリュードライブ | ±179° | ほぼ全方向への走行が可能 | Enerpac SPMT600-360 |
電子式多方向操舵では、以下の8つの走行モードが利用可能である (3)。
- 全輪操舵
- 斜行(diagonal)
- 後輪操舵
- 前輪操舵
- 旋回(circle)
- その場旋回(carrousel)
- 横行(transverse)
- クラブ走行(crab)
2.4 サスペンションと位置決め
SPMTの油圧サスペンションは、荷重の均等分配と精密な高さ調整を実現する。米国連邦道路管理局(FHWA)の技術基準では、最小垂直ストローク609 mm(24インチ)、垂直リフト範囲914〜1,524 mm(36〜60インチ)が規定されている (6)。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| サスペンションストローク | 700 mm(典型値、±350 mm) |
| プラットフォーム高さ範囲 | 1,150〜1,850 mm |
| 位置決め精度 | ±1〜2 mm |
| 高さ調整 | 油圧デッキ、約600 mm範囲 |
Scheuerle SPMTの位置決め精度は±1〜2 mmであり (3)、China Heavy Liftは±1 mmを公称している (7)。マイクロムーブ速度は2 mm/s以下で制御可能であり、石油化学プラントのモジュール据付など高精度が要求される用途に対応する (7)。
2.5 走行性能
SPMTの走行速度は積載状態によって大きく異なる (3,6)。
| 条件 | 速度 |
|---|---|
| 満載時(安全基準値) | 1 km/h以下 |
| 満載時(一般的な運用) | 約5 km/h |
| 空荷時 | 10〜12.5 km/h |
| FHWA最低基準 | 4.8 km/h(3 mph)以上 |
3 主要メーカーと製品
3.1 TII Group(ドイツ)
TII Groupは、Scheuerle(1869年創業)、Nicolas(1855年創業)、Kamag(1969年創業)の3ブランドを傘下に持つ重量物搬送車両の最大手グループである (2)。本社はドイツ・ハイルブロンに所在し、非上場(Rettenmaier家所有)である。1983年にScheuerleが世界初のSPMTを出荷して以来、業界標準を形成してきた。
| ブランド | 創業年 | 本拠地 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Scheuerle | 1869年 | ドイツ | SPMT発明元。電子操舵の標準型 |
| Nicolas | 1855年 | フランス | 機械式操舵。道路走行対応 |
| Kamag | 1969年 | ドイツ | 産業・ヤード物流特化 |
3.1.1 Scheuerle SPMT(標準型)
Scheuerle SPMTは業界のデファクトスタンダードである。プラットフォーム幅2,430 mm(20フィートコンテナ対応)の標準型は、世界中への輸送と現場展開が容易である (3)。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| プラットフォーム幅 | 2,430 mm |
| 最大軸荷重 | 60 t/軸 |
| 操舵方式 | 電子式 ±130° |
| 制御ソフトウェア | Salsa+ |
| 最高速度(空荷) | 11.5 km/h(6軸ユニット) |
PPU(パワーパックユニット)はZ180(180 kW)、Z390(390 kW)に加え、320 kWhバッテリー搭載の電動版ePPU Z390も選択可能である (3)。
| PPU型式 | 出力 | 特徴 |
|---|---|---|
| Z180 | 180 kW (244 HP) | 軽量用途向け |
| Z390 | 390 kW (530 HP) | 標準版 |
| ePPU Z390 | 390 kW | 電動版。320 kWhバッテリー |
3.1.2 Scheuerle SPMT K24(コンパクト型)
K24は20フィートコンテナに収まるコンパクト設計で、世界中への輸送が容易である (8)。最大軸荷重は48 t/軸で、標準型の60 t/軸より低いが、多くの用途で十分な搬送能力を持つ。
| 項目 | 4軸(Type 2404) | 6軸(Type 2406) |
|---|---|---|
| 総搭載能力 | 136 t | 204 t |
| 自重 | 18 t | 26 t |
| 有効ペイロード | 118 t | 178 t |
| プラットフォーム長 | 5,600 mm | 8,400 mm |
| 幅 | 2,430 mm | 2,430 mm |
3.1.3 Scheuerle SPMT 3000(大型型)
SPMT 3000はプラットフォーム幅3,000 mmの大型版で、K24の2,430 mmより約30%広い (9)。最大軸荷重60 t/軸(ポリフィルタイヤ時)で、操舵角は±140°に達する。
3.1.4 Nicolas MDED
フランス発のNicolas MDEDは機械式操舵(±55°)を採用し、最高80 km/hでの道路走行に対応する (4,10)。電子式操舵のScheuerle SPMTとは異なるアプローチであり、公道搬送が多い欧州市場での需要に対応する。
| 速度 | ペイロード/軸 |
|---|---|
| 5 km/h | 30.7 t |
| 18 km/h | 22.5 t |
| 50 km/h | 15.1 t |
| 80 km/h | 13.1 t |
3.1.5 Kamag K25
Kamag K25はプラットフォーム幅3,000 mm級の幅広型で、機械式操舵(±60°)を採用する (11)。BPW振り子軸を搭載しており道路走行に対応する。PPU出力は150 kWである。
3.2 Cometto(イタリア)
Cometto Eco1000は電動化・ハイブリッド化で先行するイタリアメーカーの製品である (12)。6軸標準モデルで最大軸荷重48 t/軸、最大総荷重288トン、プラットフォーム幅は2,430 mm(標準)と2,990 mm(オプション)を選択可能である。操舵角は±135°の電子式多方向操舵で、Scheuerle SPMTと同等の機能を持つ。
| PPUタイプ | 出力 | 特徴 |
|---|---|---|
| ディーゼル | 90 kW | 従来型 |
| ハイブリッド | 186 kW diesel + 100 kW electric | 電動モードで契約値の2倍以上の航続 |
| フル電動 | — | ゼロエミッション・低騒音 |
ハイブリッドPPUの騒音レベルは80 dB(A)以下であり、市街地近くや夜間作業での制約低減に有効である (12)。
3.3 Enerpac(米国)
Enerpac SPMT600シリーズはコンパクト設計を特徴とする米国メーカーの製品である (5)。20フィートコンテナに2トレーラ+1パワーパックを収納可能で、輸送効率が高い。
| モデル | 操舵方式 | 操舵角 | 最大構成搬送力 |
|---|---|---|---|
| SPMT600-100 | ラック&ピニオン | ±50° | 480 t(4×2構成) |
| SPMT600-360 | スリュードライブ | ±179° | 720 t(6×2構成) |
1トレーラ(3軸)あたりの搬送能力は60トンで、SPMT600-100の自重は約7トン、SPMT600-360は約8トンである (5)。PPUはTier-4ディーゼルエンジン搭載(54〜56 kW)で、1基で2〜3トレーラを駆動可能である。
3.4 中国メーカー
3.4.1 Anster
Anster社はScheuerleおよびGoldhoferと完全互換のSPMTを製造する中国メーカーである (13)。軸荷重は40〜48 t/軸で、電子式操舵(±110°)を採用する。主要造船所の認可を取得しており、Scheuerle互換の廉価版として国際市場で存在感を持つ。
3.4.2 China Heavy Lift
China Heavy Liftは軸荷重48 t/軸のScheuerle互換SPMTを製造し、104軸線+4PPUや120軸線+8PPUなどの大規模納入実績がある (7)。位置決め精度は±1 mmを公称し、使用温度範囲は−40℃〜+50℃に対応する。
4 メーカー比較
| メーカー | 国 | 主力製品 | 軸荷重 | 操舵角 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| Scheuerle | 独 | SPMT標準型 | 60 t/軸 | ±130° | 業界標準。電動PPUあり |
| Scheuerle | 独 | SPMT K24 | 48 t/軸 | ±130° | コンテナ対応コンパクト |
| Scheuerle | 独 | SPMT 3000 | 60 t/軸 | ±140° | 3,000 mm幅大型 |
| Nicolas | 仏 | MDED | 34 t/軸 | ±55° | 機械式。80 km/h道路走行 |
| Kamag | 独 | K25 | — | ±60° | 機械式。道路走行対応 |
| Cometto | 伊 | Eco1000 | 48 t/軸 | ±135° | ハイブリッド・電動PPU |
| Enerpac | 米 | SPMT600 | 60 t/3軸 | ±179° | コンパクト。スリュードライブ |
| Anster | 中 | 標準型 | 40-48 t/軸 | ±110° | Scheuerle互換 |
| China Heavy Lift | 中 | 標準型 | 48 t/軸 | ±130° | Scheuerle互換。大規模実績 |
5 日本国内の重量物搬送技術
5.1 国内市場の構造
日本国内のSPMT市場は海外メーカー製品の販売代理・レンタルが主流である。DENZAIがGoldhofer SPMTを洋上風力建設向けに導入し (14)、コーレンス(Correns Corporation)がTII Scheuerle SPMTおよびK25シリーズの国内販売を担っている (15)。
一方、日本には独自の重量物搬送技術が存在する。三菱ロジスネクスト(旧TCM)の走行台車や大阪車輌の無軌道式自走台車は、SPMTと同等の全方向走行機能を備えつつ、日本の産業環境に適合した設計がなされている。
5.2 三菱ロジスネクスト(旧TCM)走行台車
三菱ロジスネクスト(2017年に旧TCM=東洋運搬機製造から社名変更)は、造船所向け大型走行台車の分野で実績を持つ (16,17)。
5.2.1 TCM P1000
2009年に開発されたP1000は最大積載量1,000トンの走行台車で、名村造船所伊万里事業所に納入された (16)。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 最大積載量 | 1,000 t |
| 荷台サイズ | 全長 27 m × 全幅 10.7 m |
| 車軸ユニット | 40ユニット |
| エンジン | 248 kW × 2基 |
| 最高速度(空車) | 12.5 km/h |
| 最高速度(1,000 t積載時) | 3.5 km/h |
| 荷台昇降速度 | 300 mm/min |
| 走行パターン | 直進・旋回・横行・斜行・その場旋回 |
各車軸を個別に制御する全方向走行機能は、SPMTの多方向操舵と同等の機能を実現している。液晶カラータッチパネルによる最適重心位置のリアルタイム表示機能も備える (16)。
5.2.2 TCM P750
1999年に開発されたP750は最大積載量750トンで、日立造船有明工場に納入された (17)。エンジンは320馬力(約239 kW)×2基を搭載し、空車時7 km/h、積載時4 km/hで走行する。
5.3 大阪車輌
大阪車輌(1943年設立)は軌道式・無軌道式の自走台車を製造する国内メーカーである (18)。2007年に300トンキャリアの納入を開始して重量物搬送に本格参入し、2018年にはバッテリー式無軌道台車の販売を開始した。
無軌道式自走台車のラインナップは5トンから50トンまでをカバーし、走行・横行・スピンターン・斜行に対応する (18)。製鉄用設備として73トンコイル装入機(360°旋回)や135トン受鋼台車(ロードセル機能付き)も製造している。
主な納入先は日本製鉄、神戸製鋼所、JFEグループ、トヨタ、今治造船など200社以上に及ぶ (19)。
5.4 国内SPMT相当技術の比較
| 製品 | メーカー | 最大積載量 | 走行方式 | 全方向走行 |
|---|---|---|---|---|
| P1000 | 三菱ロジスネクスト | 1,000 t | 油圧駆動・無軌道 | ○ |
| P750 | 三菱ロジスネクスト | 750 t | 油圧駆動・無軌道 | ○ |
| 無軌道式台車 | 大阪車輌 | 50 t | バッテリー・無軌道 | ○ |
| 軌道式台車 | 大阪車輌 | 120 t | 電動・軌道式 | △(軌道拘束) |
6 SPMTの歴史
| 年 | マイルストーン |
|---|---|
| 1869年 | Scheuerle創業(ドイツ) |
| 1935年 | Gothaer Wagonfabrikが最初のモーター付きCulemeyerトレーラーを製造(60 hp、32 t) (1) |
| 1983年 | Scheuerleが世界初のSPMTを出荷 (2) |
| 1999年 | TCM P750(750 t走行台車)開発 (17) |
| 2004年 | KamagがTII Groupに買収 (2) |
| 2009年 | TCM P1000(1,000 t走行台車)開発 (16) |
| 2017年 | MV Sewol号引揚げで600軸相当、17,000トンを搬送 (1) |
| 2022年 | Mammoetが748軸線でFPSO 20,300トンを搬送。初の電動SPMT(ePPU)登場 (1) |
7 日本における法規制
SPMTに特化した日本の法規制は存在しない。使用場所(構内または公道)によって適用される法令が異なる。
| 使用場所 | 適用法令 | 内容 |
|---|---|---|
| 公道 | 道路運送車両法 | 大型特殊自動車または特殊車両として登録 |
| 公道 | 車両制限令(昭和36年政令第265号)第3条 | 幅2.5 m、高さ3.8 m、総重量20 tを超える場合に特殊車両通行許可が必要 (20) |
| 構内 | 労働安全衛生法 | 車両系荷役運搬機械として規制される可能性 |
SPMTの標準的なプラットフォーム幅は2,430 mmであり、車両制限令の幅員制限(2.5 m)以内に収まる。ただし、搬送物を含めた全体寸法が制限値を超える場合は特殊車両通行許可が必要となる。
米国の関税分類では、GoldhoferのSPMT(PST/SL6)は「圧縮着火内燃機関搭載の貨物運搬自動車、総重量20 t超」(HS 8704.23.00)に分類されている (6)。
8 関連記事
ロケット射場における搬送技術(NASAクローラー・種子島ドーリー等)とSPMTとの技術比較については、Aerospace Technology Guide: 移動発射台と搬送システムを参照。