トンネル坑内搬送の全体像 — ずり搬出を支配する方式分類と選定論理

軌道式・連続ベルトコンベヤ・タイヤ式・立坑垂直搬送をどう選ぶか

1 1. はじめに — トンネル工事の主役は「ずり運搬」

トンネルを掘るとは、岩や土を削り取って空洞をつくる作業である。 このとき必ず生じるのが、削り出された大量の土砂・岩片、すなわちずり(掘削土砂、muck / spoil)だ。 そしてトンネル工事の進み方は、掘る速さそのものよりも、「掘ったずりをいかに切羽(せっぱ、掘削最前面)から坑外へ運び出すか」で決まることが多い。

日本トンネル技術協会の整理によれば、ずり処理はずり積み・ずり運搬・ずり捨ての三つに分かれ、このうち掘進速度を支配する基本作業はずり運搬である (1)。 運搬方式は伝統的にタイヤ式とレール方式が一般に採用されてきたが、近年は急速施工や大容量のずり運搬を目的として、ベルトコンベヤ方式・コンテナ方式・カプセル方式などを検討する場面が増えている (1)

本連載は、シールド工法・TBM(Tunnel Boring Machine、トンネル掘進機)による掘削現場の搬送ロジスティクス——ずり搬出と資機材搬入の組み立て方——を主題とする。 第 1 部では、その土台となる坑内搬送の方式分類と、どの方式をいつ選ぶのかという選定論理を整理する。 読者が想像しやすい国内の現場から入り、第 2 部以降で扱う Gotthard・Brenner・Crossrail といった海外の大型プロジェクトへ橋渡しする。

2 2. 坑内搬送の四つの方式

坑内搬送は、大きく次の四方式に整理できる。 これは山岳トンネル(NATM、New Austrian Tunnelling Method)の知見を体系化した分類だが、シールド/TBM 工事の坑内搬送にもそのまま通じる。

(1) 軌道式(レール方式) 坑内に軌道を敷き、バッテリーロコ(バッテリー機関車)がずり鋼車(Muck Car)やムカデ台車(連結台車)を牽引する方式である。 ずり鋼車は底開き式・転倒式・スライド式など複数の型式があり、国内メーカーの黒田テックの標準商品では、底開き式 0.75〜5 m³、自動転倒式 1〜9 m³、転倒式 0.5〜5.5 m³、車輪一体型 1〜4 m³、スライド式 2.2〜8 m³ と、トンネル断面に合わせた容量レンジが用意されている (2)。 シールド工事用には、流動性の高いずりの漏洩を防ぐパッキン付きの手動鋼車も使われる (1)。 坑内に軌道を敷いて鉱車を走らせるという発想は、鉱山の坑内搬送と共通する(鉱山機械の連載で坑内軌道・鉱車・巻上を扱っている)。

(2) 連続ベルトコンベヤ 切羽で発生したずりを破砕し、ベルトに載せて連続的に坑外へ運ぶ方式である。 掘進に追従してベルトを延伸していくのが特徴で、TBM 工法はもとより、延長の長いトンネルでの採用が増えている (1)。 長大トンネルではこの方式が大規模化し、第 3 部で扱う Brenner Base Tunnel では総延長約 66 km に達するコンベヤ系が用いられている (3)

(3) タイヤ式 坑内用ダンプトラックやロードホールダンプ(LHD)でずりを運ぶ方式である。 坑内外の設備が簡便で機動性に優れ、経済的だが、延長が長くなると排気による換気の問題と、走行車両との接触災害が課題になる (1)。 近年は NATM の採用でトンネル断面が大型化し、一部では 30 t 級以上の重ダンプトラックも見られる (1)。 海外の大型 TBM 工事では、この系譜からトラックレス(レールレス)搬送のマルチサービスビークル(MSV)が発展し、最大勾配 25 %・積載 200 t に達する機種も現れた (4)(第 2 部)。

(4) 立坑垂直搬送 大深度の中間アクセス点では、竪坑(立坑)に巻上設備を設け、ずり・資材・人員を垂直に搬送する。 数十 km 級のベーストンネルで重要になる方式で、第 3 部で扱う Gotthard では、Sedrun の約 820 m 竪坑 2 本で巻上を行う (5)

このほかに、ずりをカプセルに詰めて管路で送る空気カプセル方式や、ずりを泥水とともに圧送する流体輸送(スラリー)方式がある。 流体輸送はシールド工事でよく使われ、山岳トンネルでも TBM 工法で採用される場合がある (1)

坑内搬送方式 軌道式 ロコ+ずり鋼車 連続ベルトコンベヤ 破砕→延伸搬送 タイヤ式 ダンプ/MSV 立坑垂直搬送 竪坑巻上 その他:空気カプセル方式/流体輸送(スラリー)方式 ※流体輸送はシールド工事で多用

3 3. 選定論理 — 延長・断面・勾配・経済性の関数

どの方式を選ぶかは、好みではなく条件の関数である。 ずり処理計画は、地山条件・立地条件・トンネル断面の大きさ・延長・勾配・掘削方式・ずりの性状などを考慮して、積込機械やずり捨て設備を選定する (1)

国内の積算基準は、この選定論理を延長と断面の閾値として明文化している。 鉄道・運輸機構や国土交通省の基準では、たとえば新幹線トンネル(NATM・発破タイヤ方式)では概ね 4.5 km まで、横坑トンネルでは概ね 2 km までをタイヤ式の標準的な適用範囲とする (1)。 国土交通省の土木工事積算基準では、タイヤ式の運搬距離は片道 3 km の範囲が標準とされ、設計掘削断面積 50 m² 以上・片押し延長 2,500 m 以下が一つの目安になる (1)。 小断面 NATM(35〜50 m²)では 500 m 以下・運搬距離片道 2 km が標準で、これを超えるものは別途検討となる (1)

レール方式(複線)は、設計掘削断面積 20〜35 m²・延長 1,000 m 以下を目安とし、バッテリー式 12 t ずり鋼車(側開転倒式 3.0〜6.0 m³)を運搬距離片道 2 km の範囲で用いる (1)。 さらに長距離・大量運搬になるとコンテナ方式が検討対象に入り、20 m³ 積が標準で勾配 6 % までを適用範囲とし、新幹線トンネルでは 2,600 m を超える区間で採用例がある (1)

つまり、短い・小断面ならレール、中規模ならタイヤ、長大・大量ならベルトコンベヤやコンテナという大枠の傾斜があり、そこに勾配・線形・換気・安全性・経済性が重なって最終的な方式が決まる。

4 4. 方式比較 — 長所と短所の整理

各方式の長所と短所を、日本トンネル技術協会の「表-1 主なずり運搬方式の特徴」と、土木学会「トンネル標準示方書 山岳工法・同解説」(2006 年制定)p.154 の比較表に沿って整理すると、次のようになる (1,6)

方式 長所 短所
タイヤ 坑内外の設備が簡便で機動性が良い/経済的 延長が長くなると換気の問題/接触災害のリスク
コンテナ 大量・長路運搬に適し、長大トンネルで経済的 換気の問題/車体が大きく回転用の拡幅が必要
レール 坑内環境・換気が良い/湧水の多い軟岩・土砂にも適用可 逸走防止対策が必要/ロコ・バッテリーのメンテが必要
ベルトコンベヤ 大量運搬・坑内環境・安全性に優れ、長大トンネルに適する 固定設備費・電気料金が割高/ベルト延伸・中継ドライブの段取り替えの手間
カプセル 大量・高速のずり出しが可能/坑内環境が良い 固定設備費が割高/送気ブロア用の大容量電源が必要

この表が示すのは、「優れた方式」が一つあるのではなく、換気・安全・経済性・施工性のどれを重視するかで答えが変わるという事実である。 たとえばタイヤ式は機動性と経済性に優れるが、延長が伸びると排気と接触災害が顕在化する。 逆にベルトコンベヤは安全・換気に優れるが、固定費の高さと延伸の手間という代償を伴う。

5 5. 連続ベルトコンベヤの仕組み — 釧勝トンネルの事例から

四方式のなかで、長大トンネルの主役になりつつあるのが連続ベルトコンベヤである。 その設備構成を、北海道横断自動車道・釧勝(せんしょう)トンネルの実例で見てみよう。 このトンネルは全長約 4,500 m(第 1 期工事の掘削延長 2,498 m)、縦断勾配 0.64 % の長大トンネルで、現場内事故防止と環境負荷低減を目的に連続ベルトコンベヤ方式が採用された (7)

切羽側から坑外へ、設備は次の順に並ぶ (7)

  1. 自走式クラッシャ:発破で生じた岩塊を、ベルトに均一に載せるため 200 mm 以下に破砕する。釧勝トンネルでは破砕能力 300 t/h・動力 90 kW のクラッシャを用いた (7)
  2. テールピース台車:ベルトの切羽側折り返し(テールプーリー)を搭載し、破砕ずりをベルトに載せる。掘進に追従して前進する。
  3. 支承架台:全線にわたりベルトを支える架台。インバート工・防水工・二次覆工の作業に合わせ、吊チェーン方式など複数の形式を使い分ける。
  4. ストレージカセット:延伸用ベルトを蓄えるユニットで、最大 380 m 分のベルトを収納する (7)
  5. メインドライブ:坑口側の折り返しであり、ベルトの動力部(ヘッドプーリー)を兼ねる。掘削延長が伸びれば中間ブースターを増設する(釧勝トンネルでは 2,700 m 程度で設置を予定した)(7)
  6. 坑外ベルトコンベヤ:受けたずりをずり仮置場まで連続搬送する。
切羽 坑外 自走式 クラッシャ テール ピース台車 支承架台 (全線) ストレージ カセット 最大380m メイン ドライブ 坑外ベルト → ずり仮置場

ベルトは掘進に追従して延伸させる必要があり、延伸は 100〜150 m 掘進ごとに行うのが一般的だ (1)。 ベルトを継ぎ足す方式には、縫い針で縫合するレーシング(lacing)方式と、ベルトを溶着する加硫(vulcanizing)方式がある (1)。 釧勝トンネルでは、ずり運搬作業の完了直後からロックボルト打設完了までに約 10 m のベルト延伸と無負荷試運転を組み込み、2 日に 1 回の延伸で掘進に追従させた (7)

連続ベルトコンベヤが選ばれる動機は、安全と環境である。 釧勝トンネルでは、ベルトコンベヤ方式の CO₂ 排出量が 172.49 t となり、タイヤ方式で試算した 249.47 t の 69 %、すなわち 31 % の削減を達成した (7)。 ダンプトラックの走行に伴う排ガス・巻き上げ粉じん・騒音がトンネル全線に及ぶのに対し、ベルトコンベヤ方式では粉じん・騒音の発生箇所がクラッシャとメインドライブに限られる (7)。 一方で固定設備費が高いため、一般に連続ベルトコンベヤはトンネル延長 3,000 m を境に採用事例が増える——これは設備のイニシャルコストが高く、トータルのランニングコストで比較して 3,000 m 以上でなければコスト面で不利になるためとされる (7)

6 6. 国内シールド工事と海外大型への橋渡し

ここまでは山岳トンネル(NATM)の知見を軸に整理してきたが、ずり搬送の方式分類はシールド/TBM 工事にもそのまま適用できる。 大林組の解説によれば、シールド工事の坑内搬送は、カッターヘッドで切削した土砂をスクリューコンベヤで排出し、後段でベルトコンベヤやずり運搬車へ接続して坑外へ送るのが基本である (8)

国内の連続ベルトコンベヤ搬出の例としては、佐藤工業が東北新幹線・八甲田トンネルで採用したシステムがある。 ベッセル(運搬容器)で切羽後方 150 m 程度にずりを小運搬・仮置きし、インパクトロールクラッシャーで破砕してから連続ベルトコンベヤで坑外へ搬出する方式で、排ガス・走行路面の巻き上げ粉じん・CO₂ を抑制し、坑内通行車両を減らして安全性を高めた (9)

シールド工事における立坑の役割も見ておきたい。 国土交通省九州地方整備局の鹿児島東西道路(大断面道路シールド、約 2.3 km 区間)では、幅 約 17 m × 長さ 約 25 m × 深さ 約 18 m の立坑を設け、掘削機の据付・土砂搬出・資材搬入に用い、掘削土砂はベルトコンベヤなどで坑外へ搬出している (10)。 この「立坑を起点とした搬出・搬入」の構図は、第 3 部で扱う Gotthard の竪坑垂直搬送と、規模こそ違えど同じ発想に立つ。

国内シールド機の体系は、切羽の保持方式によって泥土圧式(EPBM)と泥水式(スラリー TBM)に大別される (11)。 この二つの違いが、坑内搬送のかたちを根本から分ける——泥土圧式は後方ベルトコンベヤで固体のずりを運び、泥水式はずりを泥水とともに管路で圧送する。 この対比は、第 4 部で扱う Crossrail(London Clay の泥土圧式 vs Thames の泥水式)で具体的に立ち現れる。 Crossrail では総掘削ずり 700 万 t 超のうち 98 % 超が有効利用され、都市トンネルにおける場外搬出・再利用の到達点を示した (12)

次の第 2 部では、四方式のうちタイヤ式に焦点を当てる。 軌道の限界を越えるために生まれたマルチサービスビークル(MSV)——「タイヤの上の列車」が、いかにして世界の大型 TBM 工事の標準搬送系になったのかをたどる。

ノート

本記事の積算基準の延長・断面の閾値は、日本トンネル技術協会「ずり出し方式」が整理した国内基準(鉄道・運輸機構/国土交通省)の値に基づく。実際の方式選定は個別の地山条件・施工条件で変わるため、ここでの数値は標準的な目安である。

参考文献

1.
日本トンネル技術協会. ずり出し方式(第2章 ずり出し方式の概要) [Internet]. 2008年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.japan-tunnel.org/files/images/report_zuri_chapter2.pdf
2.
黒田テック. トンネル工事用 ずり鋼車・運搬機械 総合カタログ [Internet]. 2018年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.kuroda-tec.co.jp/files/files20180621180556.pdf
3.
Marti Technik AG. Conveyor System at Brenner Base Tunnel, Lot Mules 2–3, Italy (66 km Conveyor Belt System) [Internet]. 2019年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.martitechnik.com/wAssets/docs/factsheets-en/Brenner_en.pdf
4.
Herrenknecht AG. Multi Service Vehicles (MSV) [Internet]. 2024年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.herrenknecht.com/en/products/productdetail/multi-service-vehicles-msv/
5.
GeoResources. Gotthard Base Tunnel: The Sedrun Shaft Hoisting Systems — Part 2 (Conversion and Operating Phase) [Internet]. 2018年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.georesources.net/cms.php/en/journals/45/Gotthard-Base-Tunnel-The-Sedrun-Shaft-Hoisting-Systems-Part-2-Conversion-and-Operating-Phase
6.
土木学会 トンネル工学委員会. トンネル標準示方書 山岳工法・同解説(2006 年制定、p.154 主なずり運搬方式の比較) [Internet]. 2006年 [cited 2026年6月25日]. Available at: https://www.jsce.or.jp/publication/detail/detail.asp?id=2919
7.
真司, 英雄, 和寛. 山岳トンネルにおける長距離ベルトコンベアの活用 — 道東道黒松内釧路線釧勝トンネルにおけるベルトコンベアの適用事例報告 [Internet]. 2010年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://thesis.ceri.go.jp/db/giken/h22giken/JiyuRonbun/GT2.pdf
8.
大林組. OBAYASHI TUNNEL WORLD — シールドトンネル編 [Internet]. 2024年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.obayashi.co.jp/tunnelworld/lesson/shield/
9.
佐藤工業. 連続ベルトコンベアによる山岳トンネル新ずり搬出システム [Internet]. 2024年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.satokogyo.co.jp/technology/detail.php?id=46
10.
国土交通省 九州地方整備局. 鹿児島東西道路 シールドトンネル工事概要 [Internet]. 2024年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.qsr.mlit.go.jp/kakoku/works/road/touzai/koujigaiyou.html
11.
日本建設機械施工協会. シールド機(建設機械の分類) [Internet]. 2024年 [cited 2026年6月24日]. Available at: https://www.cema.or.jp/general/industry/machines/shield-machines.html
12.
Crossrail Learning Legacy. The Excavated Materials Story [Internet]. 2017年 [cited 2026年6月25日]. Available at: https://learninglegacy.crossrail.co.uk/documents/excavated-materials-story/