長征7号A(CZ-7A)
Long March 7A - China’s Next-Generation Clean Propellant GTO Rocket
1 概要
長征7号A(CZ-7A, Long March 7A)は、中国の次世代クリーン推進剤GTOロケットであり、CZ-7に極低温水素第3段を追加した派生型である (1)。有毒推進剤(UDMH/N₂O₄)を一切使用しない環境配慮型GTOロケットとして、長征3号Bの後継機を目指して開発されている。
1.1 基本諸元
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 全高 | 60.1m |
| コア直径 | 3.35m |
| 打上げ時質量 | 573ton |
| 段数 | 3段 + 4ブースター |
| 初打上げ | 2020年3月16日 |
| 打上げ回数 | 5回(2025年時点) |
| 成功率 | 80%(5回中4回成功) |
| 運用状況 | 運用中 |
1.2 ペイロード能力
| 軌道 | ペイロード質量 |
|---|---|
| LEO(200km) | 13,500kg |
| GTO | 7,000kg |
1.3 推進システム
1.3.1 コアステージ第1段
- エンジン: YF-100(LOX/Kerosene)× 2基
- 推進剤: 液体酸素/ケロシン(RP-1)
- 海面推力: 2,400kN(合計)
- 燃焼時間: 約520秒
1.3.2 ブースター(4基)
- エンジン: YF-100(LOX/Kerosene)× 2基/ブースター
- 推進剤: 液体酸素/ケロシン(RP-1)
- 海面推力: 2,400kN/ブースター
- 総推力: 9,600kN(4基合計)
- 燃焼時間: 約173秒
1.3.3 コアステージ第2段
- エンジン: YF-115(LOX/Kerosene)× 1基
- 推進剤: 液体酸素/ケロシン(RP-1)
- 真空推力: 180kN
- 燃焼時間: 約700秒
1.3.4 第3段(極低温水素上段)
- エンジン: YF-75D(LOX/LH₂)× 2基
- 推進剤: 液体酸素/液体水素(極低温)
- 真空推力: 176kN(合計)
- 燃焼時間: 約480秒
- 再点火能力: あり(複数回点火でGTO投入)
YF-75Dの特徴: - 液体水素温度: -253°C - 高比推力: ~442秒(真空) - GTO投入: 高軌道投入に最適化
2 技術的特徴
2.1 1. 全段クリーン推進剤 - 環境配慮型GTO機
長征7号Aは 全段でクリーン推進剤を使用 する中国初のGTOロケットである (1):
2.1.1 推進剤比較
| ロケット | 第1-2段 | 第3段 | 環境影響 |
|---|---|---|---|
| CZ-3B | UDMH/N₂O₄(有毒) | LOX/LH₂ | ❌ 内陸落下汚染 |
| CZ-7A | LOX/Kerosene | LOX/LH₂ | ✅ 無毒・クリーン |
環境的優位性: - 無毒性: UDMH(非対称ジメチルヒドラジン)不使用 - 燃焼生成物: CO₂と水蒸気のみ - 海上落下: 全段が南シナ海に落下(人口密集地回避)
国際市場への対応: - 環境規制: 欧米の環境規制に適合 - 保険料率: 有毒推進剤より低リスク - 企業イメージ: 環境配慮型ロケット
2.2 2. CZ-7に第3段を追加
長征7号Aは CZ-7に極低温水素第3段を追加 した派生型である (1):
2.2.1 CZ-7との比較
| 項目 | CZ-7 | CZ-7A |
|---|---|---|
| 段数 | 2段 + 4ブースター | 3段 + 4ブースター |
| 第3段 | なし | YF-75D(LOX/LH₂)× 2 |
| 全高 | 53.1m | 60.1m(+7m) |
| LEO能力 | 13.5ton | 13.5ton(同等) |
| GTO能力 | 不可 | 7.0ton |
| 主要用途 | LEO貨物船(天舟) | GTO通信衛星 |
第3段追加の意義: - GTO投入: 高軌道投入能力の獲得 - CZ-3B代替: 環境配慮型GTO機 - 市場拡大: 商業通信衛星市場への参入
2.3 3. 文昌LC-201での運用
長征7号Aは 文昌LC-201(三塔合一設計) を使用する (1):
2.3.1 文昌LC-201の特徴
三塔合一設計: - 統合タワー: 組立・整備・打上げ一体型 - 高さ: 85.8m(CZ-7Aの60m対応) - 共用: CZ-7とCZ-8も使用
CZ-7A運用: - 組立期間: 約30日間 - 打上げ準備: 約12日間 - 海上輸送: 天津港から文昌港へ
推進剤供給: - LOX/Kerosene: 第1段・第2段・ブースター - LOX/LH₂: 第3段(極低温)
2.3.2 文昌の優位性
低緯度: 北緯19.6度 - GTO投入効率: 西昌(28.2°N)より有利 - 地球自転活用: より低緯度で地球自転速度大
海上落下: 南シナ海 - 環境配慮: 人口密集地回避 - 安全性: 陸上落下ゾーン不要
2.4 4. 開発の苦難 - 初号機失敗と改良
長征7号Aは 初号機失敗 を経験し、改良を経て成功している (1):
2.4.1 打上げ履歴
| 号機 | 打上げ日 | ペイロード | 結果 | 原因/成果 |
|---|---|---|---|---|
| 初号機 | 2020-03-16 | 新技術試験衛星C/D等 | ❌ 失敗 | 第3段異常 |
| 2号機 | 2021-03-12 | 試験通信衛星9号 | ✅ 成功 | 改良型初成功 |
| 3号機 | 2022-02-27 | 中星1E | ✅ 成功 | 商業衛星 |
| 4号機 | 2023-01-15 | 実践23号 | ✅ 成功 | 技術試験衛星 |
| 5号機 | 2024-06-27 | 中星6E | ✅ 成功 | 商業衛星 |
初号機失敗: - 原因: 第3段YF-75Dエンジンの異常 - 影響: 約1年間の運用停止
改良対応: - 第3段改良: YF-75Dエンジンの設計見直し - 品質管理: 製造プロセス強化 - 試験強化: 地上燃焼試験の追加
復帰後: 2021年以降4回連続成功(成功率100%)
2.5 5. CZ-3B後継機としての位置づけ
長征7号Aは 長征3号Bの後継機 として期待されている (1):
2.5.1 CZ-3Bとの比較
| 項目 | CZ-3B | CZ-7A |
|---|---|---|
| GTO能力 | 5.5ton | 7.0ton(1.3倍) |
| 推進剤 | UDMH/N₂O₄ + LOX/LH₂ | LOX/Kerosene + LOX/LH₂ |
| 環境 | 有毒・内陸落下 | クリーン・海上落下 |
| 射場 | 西昌(北緯28.2°) | 文昌(北緯19.6°)より低緯度 |
| 初打上げ | 1996年 | 2020年 |
| 打上げ回数 | 90回以上 | 5回 |
| 成功率 | 95% | 80%(初期段階) |
移行の課題: - 信頼性: CZ-7Aの実績蓄積が必要 - コスト: 文昌海上輸送がコスト高 - 打上げ頻度: 需要に応じた製造能力
3 主要ミッション
3.1 中星(ChinaSat)通信衛星
中星1E(2022年2月27日): - 質量: 約5ton - 用途: 商業通信衛星 - 軌道: GTO → 静止軌道
中星6E(2024年6月27日): - 質量: 約5.5ton - 用途: 商業通信衛星 - 軌道: GTO → 静止軌道
意義: - 商業打上げ: CZ-7Aの商業打上げサービス開始 - CZ-3B代替: 環境配慮型GTOロケットの実証
3.2 試験通信衛星・技術試験衛星
試験通信衛星9号(2021年3月12日): - 2号機: 初号機失敗後の初成功 - 用途: 通信技術実証
実践23号(2023年1月15日): - 用途: 宇宙環境観測、技術試験 - 軌道: GTO
4 技術的課題
4.1 第3段極低温水素の管理
課題: - 液体水素: -253°C極低温 - ボイルオフ: 継続的な蒸発損失 - 打上げ窓: 推進剤充填後の打上げ時間制約
対策: - 断熱タンク: 真空断熱、多層断熱材 - 継続補給: 打上げ直前まで推進剤補給 - 高速充填: 充填時間短縮技術
4.2 海上輸送コスト
課題: - 輸送距離: 天津港 → 文昌港(約1,500km) - 輸送時間: 約5日間 - 天候依存: 台風シーズン(6-11月)は困難
対策: - 輸送効率化: 専用船の運用効率向上 - 季節調整: 台風シーズンを避けた打上げ計画
4.3 競合ロケットとの競争
4.3.1 中国国内
| ロケット | GTO | 推進剤 | 射場 | 打上げ回数 |
|---|---|---|---|---|
| CZ-7A | 7.0ton | LOX/Kerosene + LOX/LH₂ | 文昌 | 5回 |
| CZ-3B | 5.5ton | UDMH/N₂O₄ + LOX/LH₂ | 西昌 | 90回以上 |
| CZ-5 | 14.0ton | LOX/Kerosene + LOX/LH₂ | 文昌 | 10回 |
CZ-7Aの差別化: - 環境配慮: 全段クリーン推進剤 - GTO 7ton: CZ-3Bの1.3倍、大型衛星対応 - 低緯度: 文昌のGTO投入効率
課題: - 実績不足: 打上げ5回(CZ-3Bの90回に比べ少ない) - コスト: 海上輸送で割高
4.3.2 国際比較
| ロケット | 国 | GTO | 推進剤 | 成功率 |
|---|---|---|---|---|
| CZ-7A | 中国 | 7.0ton | LOX/Kerosene + LOX/LH₂ | 80% |
| Falcon 9 | 米国 | 8.3ton | LOX/Kerosene | 99% |
| Ariane 6 | 欧州 | 11.5ton | Solid + LOX/LH₂ | 新型(2024〜) |
| H-IIA | 日本 | 6.0ton | LOX/LH₂ + Solid | 98% |
5 将来展望
5.1 CZ-3Bからの段階的移行
予想シナリオ:
5.1.1 短期(〜2028年)
- 並行運用: CZ-3BとCZ-7Aの両立
- 実績蓄積: CZ-7Aの信頼性向上(目標:20回打上げ)
- 顧客拡大: 商業衛星顧客の獲得
5.1.2 中期(2028-2035年)
- 主力移行: CZ-7AがGTO主力機に
- CZ-3B減少: 西昌のCZ-3B打上げ頻度減少
- 環境規制: 有毒推進剤規制強化
5.1.3 長期(2035年以降)
- CZ-3B退役: 完全にCZ-7Aへ移行
- 文昌中心: GTO打上げは文昌集約
5.2 打上げ頻度の向上
目標: - 2025年: 年間3-4回 - 2030年: 年間6-8回(CZ-3B並み) - 2035年: 年間10回以上
必要条件: - 製造能力: 年間10機以上の生産体制 - 射場: 文昌LC-201の高頻度運用 - 海上輸送: 効率化・高頻度化
5.3 再使用技術の研究
開発状況: 研究段階
目標: - ブースター回収: 4基のブースター垂直着陸回収 - コアステージ回収: 第1段コアの回収(長期計画) - コスト削減: 打上げコスト30-50%削減
技術課題: - 海上着陸: 南シナ海での回収プラットフォーム - ケロシン再使用: ケロシンエンジンの再使用性 - 整備コスト: 回収後の検査・整備の経済性
6 比較: 世界のクリーン推進剤GTOロケット
| ロケット | GTO | 推進剤 | 初打上げ | 打上げ回数 | 成功率 | 状況 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| CZ-7A | 7.0ton | LOX/Kerosene + LOX/LH₂ | 2020 | 5回 | 80% | 運用中 |
| Falcon 9 | 8.3ton | LOX/Kerosene | 2010 | 300回+ | 99% | 運用中 |
| H-IIA | 6.0ton | LOX/LH₂ + Solid | 2001 | 47回 | 98% | 運用中 |
| Ariane 6 | 11.5ton | Solid + LOX/LH₂ | 2024 | 1回 | 100% | 運用開始 |
| Delta IV Heavy | 14.2ton | LOX/LH₂ | 2004 | 16回 | 94% | 運用中 |
7 参照文献
ファイルパス: C:\Users\xprin\github\tech-research-portfolio\projects\rockets_facilities\docs\rockets\china\CZ-7A.qmd
完成日: 2025-10-22
対応YAMLデータ: C:\Users\xprin\github\tech-research-portfolio\projects\rockets_facilities\data\rockets\china\CZ-7A.yaml
関連発射施設: 文昌航天発射場